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【決算賞与】決算賞与を出す前に知っておきたいこと

決算賞与

~「なんとなく支給」をやめるために、決算前に確認したい5ステップ~



業績が好調な期末、決算賞与を出したいけれど「本当に損金にできるのか」「いくら出せるのか」「後で後悔しないか」と足踏みしていませんか?
このコラムでは、実際の意思決定から支給完了までの実務プロセスを、税務・社会保険・資金繰りの三つの視点から体系的に解説します。


はじめに——「なんとなく出す」が一番危ない


決算賞与で失敗する会社に共通しているのは、「利益が出たから出す」という感覚先行の判断です。
頑張ってくれた従業員への還元、節税、社長自身の満足感——どれも正当な動機です。
しかし、税務上の要件を一つでも満たさなければ損金に算入できず、期待した節税効果はゼロになります。
資金繰りへの影響を読み誤れば、翌期の資金ショートを引き起こすリスクもあります。


設計を「感覚」から「プロセス」に変えるだけで、決算賞与は会社にとって強力な経営ツールになります。
以下、決断から支給完了までを5つのステップで整理します。

「決算3か月前から相談に来てくれると、選択肢が広がります。決算直前ではできることが限られてしまうので、まず現状の数字を一緒に見ることから始めましょう。」

 

STEP 1|「出せるか」を確認する——利益と資金の両面チェック


最初にやることは、利益の着地見込みと現金の確認を同時に行うことです。
「利益が出ている=現金がある」は、中小企業においては必ずしも成り立ちません。

 

⚠ よくある誤解
売掛金が多い会社では、帳簿上の利益は大きくても実際の手元現金は少ないケースが頻繁にあります。
決算賞与の支給後に、法人税・消費税の納付や社会保険料の支払いが重なり、資金繰りが詰まるパターンです。

 
 
確認すべき数字のリスト

  • 当期の税引前利益(見込み)と税負担額の試算
  • 賞与支給月の現金残高と翌月以降の入金予定
  • 社会保険料(会社負担分)を含む実質コストの計算
  • 借入返済・設備投資など、向こう6か月の大型支出

 
これらを確認してから「いくら出せるか」の上限を設定します。
節税効果は大切ですが、会社が安全に支払える範囲が最優先です。

 

STEP 2|損金要件を「設計」に組み込む


決算賞与を当期の損金に算入するには、税法上の形式要件を完全に満たす必要があります。
一つでも欠けると、翌期の益金として戻ってきます。

 

要件 内容 判定
①個別通知 決算日(事業年度末)までに、各従業員に支給額を個別に通知すること。
書面・メール・チャット等、証拠が残る形が望ましい
必須
②支払期限 決算日の翌日から1か月以内に、全員に実際に支払うこと 必須
③金額の一致 通知した金額を減額・一部未払いなく支払うこと 必須
④未払計上 当期に未払賞与として費用計上し、翌期に支払う(発生主義で計上) 必須

 
 
「OK」と「NG」のシナリオ比較
 

✓ 損金算入できるケース
3月31日決算。3月28日に全従業員へ書面で支給額を通知。4月25日に全員へ振込完了。通知額と支払額が一致。→ 当期損金に算入OK

✗ 損金算入できないケース
3月31日決算。社内で金額を決定したが通知が4月3日になった。支払は4月25日。→ 通知が決算日を超えているため当期損金NG(翌期課税)

✓ メール通知でも有効
3月30日に全員へ個人あてメールで支給額を通知。返信確認済み。4月20日支払。金額一致。→ 証拠が残る形であれば通知方法は問わない

✗ 1名でも未払いがあるとNG
通知・支払とも完璧だったが、退職予定者1名の分を保留。→ 全員への支払が条件。一部でも欠けると全額NG判定になるリスクがある

 
 

🔑 実務のポイント
個別通知は「記録に残る形」が鉄則です。口頭での通知は、後で証明できません。
書面・メール・チャットツール(タイムスタンプ付き)など、通知事実を客観的に示せる手段を使いましょう。

 

STEP 3|社会保険と源泉所得税の正確な試算


決算賞与は税務だけでなく、労務コストの計算が甘いと実質負担が大きく膨らみます。
支給額がそのままコストになるわけではない点を、経理担当者はしっかり把握しておきましょう。

 
(1)社会保険料——「会社負担」が意外と重い

賞与に対する社会保険料(健康保険+厚生年金)は、賞与額に保険料率をかけた額の半分を会社が負担します。
月給30万円の従業員に30万円の決算賞与を支給した場合、会社の実質コストは賞与30万円に加え、社会保険料(会社負担分)が約4〜5万円程度加わります。
10名に同じ賞与を出す場合、この「見えないコスト」が40〜50万円規模になることを忘れないでください。

 
(2)源泉所得税——従業員の「手取り感」を守る

賞与の源泉徴収計算は月次給与とは異なる計算方法です。
前月の給与額を基に税率が算出されるため、従業員によっては「思ったより手取りが少ない」という感覚を持ちやすくなります。支給前に「手取り概算」を添えた通知書を渡すだけで、従業員の受け止め方がまったく変わります。

 
 

STEP 4|支給スケジュールを「逆算」で決める


損金算入要件を満たすには、決算日から逆算してスケジュールを設計することが必要です。
「決算が終わってから考える」では手遅れになる場合があります。

 

決算2週間前
利益着地・支給額の確定
税理士と数字を確認し、支給総額・対象者・個人別金額を決定する。資金繰りとのバランスを同時確認。

決算日前日まで
全従業員への個別通知
通知書(書面 or メール)を全員に配布・送付。受領確認を記録に残す。

決算日
未払賞与を帳簿に計上
決算仕訳として「未払賞与(費用)」を計上する。これが損金算入の根拠となる。

翌日〜1か月以内
全員への支給完了(期限厳守)
振込を完了させ、支払明細を保管する。1日でも超過すると要件を満たさない。

 

STEP 5|「今期だけ」にしない——継続性の設計


決算賞与は一度支給すると、従業員の中に「来期もある」という期待が生まれます。
翌期の業績が悪化したときに出せなければ、モチベーション低下や離職リスクにつながることもあります。

 
賞与
 

だからこそ、「条件付き」の設計が重要です。「一定の業績目標を達成した場合に支給する」という基準をあらかじめ示しておくことで、従業員も経営者も合理的に期待値をコントロールできます。

 

💡 設計のヒント
「経常利益が○○万円を超えた場合、超過額の△%を賞与原資として全従業員に配分する」といった業績連動ルールを就業規則・賃金規程に明記しておくと、労務リスクも軽減されます。設計段階で社会保険労務士と連携することをおすすめします。

 

総まとめチェックリスト——支給前に必ず確認を
 

✅ 決算賞与・最終確認リスト(クリックでチェック)

当期の税引前利益(着地見込み)と税負担額を試算済みである

支給総額+社会保険料(会社負担)を加えた実質コストを把握している

翌3〜6か月の資金繰り(税金・社保・返済)を確認し、余裕がある

決算日までに全従業員への個別通知(記録付き)が完了する

決算日翌日から1か月以内に全員への支払が完了するスケジュールである

通知額と支払額が完全に一致している(部分的な保留・減額がない)

来期の業績見込みと照らし、継続可否・支給基準を検討している

顧問税理士・社労士と事前に内容を確認・合意している

 

おわりに——「出す判断」より「設計する習慣」が会社を守る


決算賞与を「利益調整ツール」として扱うか、「経営戦略の一部」として位置づけるかで、その効果はまるで変わります。
要件を満たすだけでなく、従業員への伝え方・継続性の設計・資金繰りとの整合——これらを同時に考えることが、本当の意味での経営判断です。


「今期は出せるかもしれない」と感じた段階で、一度数字を一緒に見てみましょう。
決算の2〜3か月前から動き始めるだけで、選択肢は格段に広がります。

 



※実際の支給にあたっては、会社の状況・決算期・従業員構成等により取扱いが異なります。
支給前に必ず顧問税理士・社会保険労務士へご相談ください。

2026年2月26日
税理士法人中京会計

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